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バキ完全版完結

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バキ完全版(17) (少年チャンピオン・コミックス)/秋田書店
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毎月2冊ずつ刊行されていた、バキシリーズ第二部『バキ』の完全版、今月でた17巻で完結した。


バキシリーズは、お気に入りのたたかいが収録された巻(たとえばバキでは花山対スペックや、シコルスキー対ジャック&ガイア、範馬刃牙では烈からジャックにかけてのピクル戦、といったぐあい)のみをぽろぽろと新書版で所持している状態だったが、べつに所持していないぶぶんがキライというわけではないので、これを機会に集めてみようというつもりはあった。しかし完全版というのはありえないくらい場所をとるし、だいたい高い。だから、具体的にいえば、シコルスキーの出ているもの、またライタイ祭全体、こういうぶぶんだけを、とりあえず買おうかな、という感じだった。ところが、このシコルスキーというのは、死刑囚5人のなかではほぼ最後まで生き残った人物であり、やられては復活し、ぶちのめされ、またあらわれ、みたいなことをくりかえしているので、「シコルスキーの出ているもの」を集めることは、ほとんどそのまま1巻からそろえることにほかならないということに、だいぶあとになって気づいたのだった。そして、彼が敗北を認め、ほどなくライタイ祭がはじまる。これが終わると、アライジュニア編がはじまり、そのじてんで15巻もおしまいのほうなのである。要するになにがいいたいかというと、ぜんぶそろえてしまったということである。


今回、毎月2冊ずつ読み進めていくことで、バキというのは誇張抜きで、最高の漫画だということがはっきりわかった。こんなにおもしろい漫画がほかにあるだろうか。いや、まあ、あるんだろうけれど、読んでいるあいだにそういう「ほかの漫画」のことなんかいっさい浮かばないという点では、やはりすごい強度の作品だし、唯一無二なのだなーとおもう。たんに、板垣先生が、徳川光成がいうような「男の願望」が描かれているからという理由だけでは、こんな漫画にはならない。ひとことでいうと、すべてが書いてある、そういう作品である。もちろん、これはおおげさな評言である。僕にも自覚はある。でも、そういうふうな語り方でしか、なぜかこの漫画についてくちにすることができないのである。あるいは、二次創作としての批評が、その分析の深度でもって、分析者、つまり読み手である僕の情熱を伝え、間接的に「評価」になっているというぶぶんはあるとはおもう。しかしそれはいかにも遠まわりだし、こういう語り方もありだろう。


どうして急にこんなことを書くのかというと、ピクル対烈から最終話まで、毎週ねちねちと批評を書いてきたけど、ああいう読み方では見えてこないものというのが、通して読むと浮かび上がってくるのだ。よくいわれることだけど、この展開はいったいなんなのだろうと、首をかしげてしまうような筋書きも、通して読んでみるとごく自然におもしろいというのがバキの不思議なところなのだ。もしかするとそれは、この物語の書かれ方に理由があるのかもしれない。形式としては本作は週刊連載だったが、ネームの段階ではもっと大きい単位で描いているのではないかとおもわせるぶぶんもあるのだ。

それとも、あるいは、もっと物語の構造の要請するところがそういうものであるのかもしれない。荒木飛呂彦のジョジョのシリーズでは、登場人物たちは皆ブリコルールである。主人公たちの能力は、初登場の段階である程度ことばにして紹介されるが、それは、本人であれそれを目撃した他人であれ、そのことばを発したものの「解釈」にほかならない。最初からタイトな説明書きつきでスタンド能力が手に入るわけではない。彼らは、じぶんのスタンドはどうやらこういう能力らしいということを「発見」し、言語化するのである。なぜなら、スタンド能力は彼らにとって既知の発明品や創作物ではなく、あくまで未知の授かりものだからである。それであるから、たたかいを重ねるうち、それ以前まででは想像もつかなかった能力のつかいかたを新たに発見したりもする。能力が明示的に進化するパターンも数多いが、原則的にはそうした「解釈の更新」が、物語の一回性を担保している。そして、おそらく作者の荒木飛呂彦も、展開はともかく、少なくとも戦闘の細部の描写においては、主人公たちとともに「いったいこの手持ちの能力でどれだけのことができるのか」ということを、その場で思い悩んでいるのである。そこにあの漫画の即興性、稀有のスリルが宿っているとおもうのだが、バキにおいてもほぼ同様のことが起こっているのかもしれない。作品を見るかぎり、尾田栄一郎とか冨樫義弘といったひとたちは、モーツァルトみたいに、もう物語のすべてがあたまのなかで完璧に出来上がっていて、あとは描くだけっていう感じのようだけど、才能にもいろいろあって、また創作法というものも向き不向きがある。バキは、打ち倒すべき悪がいて、主人公が困難のすえそれに打ち勝つといった漫画ではないけれど、直感的に、作者においては、信頼に足る「来週の自分」にパスし続ける、というしかたではなしが展開していっている、という感じがあるのだ。もしかするとそれは、板垣先生が闘争の流動性というものを知り尽くしているがゆえであるかもしれない。どこかで読んだことだが、アライジュニア対ジャック、あれはもともとジュニアが勝つ予定だったそうである。


だから、バキという漫画はじつは、週刊連載の1話をじっくり読むしかたと、はなしがパスされ続けていくさまに身を任せるしかたのどちらにも向いている作品なのである。1話に立ち止まり、それがなにを意味するのか考え、どのように展開するのか予想する、その経路は、じつはそれを受け取ってはなしを展開させつつある板垣恵介に同期していることにほかならないのであり、また同時に、そのようにしてつくられた作品の流れが、一回性の緊張感を孕んだスリリングなものになるのも当然のことなのである。





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